隠れた貢献を見つける:フォロワーの主体性を正当に評価するための実践的ステップ
はじめに:見逃しがちな「隠れた貢献」とは
チームリーダーとして、メンバーの主体性を引き出し、彼らの貢献を正当に評価することは、チーム全体のパフォーマンス向上に不可欠であると理解されていることと思います。しかし、日々の業務に追われる中で、「あのメンバーは本当に主体的に動いているだろうか」「目立った成果はないが、何か貢献してくれているはずなのに、うまく評価できない」と感じることはありませんでしょうか。
特に、フォロワーシップにおいて重要な「隠れた貢献」は、ともすれば見過ごされがちです。これは、直接的な成果に結びつかないサポート業務、チーム内の調整役、雰囲気づくりへの寄与、あるいは自ら課題を見つけて解決策を模索する初期段階の行動などを指します。これらは、チームの円滑な運営や将来の成功に不可欠であるにもかかわらず、その評価は容易ではありません。
この記事では、「良いフォロワー」が評価される文化を築くために、チームリーダーがメンバーの「隠れた貢献」を見つけ出し、公正に評価するための具体的な視点と実践的なステップをご紹介します。
フォロワーシップにおける「隠れた貢献」が評価されにくい理由
なぜ、フォロワーシップにおける隠れた貢献は評価されにくいのでしょうか。主な理由は以下の点が挙げられます。
- 目に見える成果への偏重: 多くの評価システムは、明確な成果物や数値目標の達成度を重視する傾向があります。そのため、成果に至るまでのプロセスや、直接的な成果には繋がらないがチームの基盤を支える行動が見落とされがちです。
- リーダーの「慣れ」と盲点: リーダー自身が慣れ親しんだ評価軸や、過去の成功体験に基づいた視点にとらわれ、新しい形の貢献や、静かながらも重要な行動を見逃してしまうことがあります。
- メンバーの自己PR不足: 貢献しているメンバー自身が、その行動を「当たり前」と感じていたり、アピールすることに抵抗を感じていたりする場合もあります。
しかし、これらの「隠れた貢献」を適切に評価しないことは、メンバーのモチベーション低下や主体性の抑制につながりかねません。フォロワーシップを育むためには、これらの貢献を「掘り起こし」、適切に認知し、評価する仕組みが不可欠です。
隠れた貢献を見つける3つの視点
では、具体的にどのようにして隠れた貢献を見つければ良いのでしょうか。以下の3つの視点を持つことをお勧めします。
1. 日常のコミュニケーションから「気づき」の種を探す
メンバーとの日々の対話の中に、隠れた貢献のヒントが潜んでいます。
- 積極的な質問と傾聴: メンバーが最近、何に関心を持っているか、何に困っているか、どのような工夫をしているかを尋ねてみましょう。例えば、「最近、業務の中で何か改善しようと試みたことはありますか」といったオープンな質問は、自律的な行動のきっかけを教えてくれることがあります。
- 非公式な会話での観察: 会議中だけでなく、休憩時間やランチの際など、非公式な場での発言や行動にも注意を払います。誰かが困っているときに自然と声をかける、チームの課題について建設的な意見を口にする、といった行動は、見逃されがちな貢献の表れです。
- 議事録やチャットログの確認: 会議での発言やチャットでのやり取りを振り返ることで、一見目立たないが、議論を深めたり、情報共有を促進したりする発言があったことに気づく場合があります。
具体的な問いかけ例: 「最近、チームのために、あるいは自分の業務をより良くするために、何か工夫したことはありますか?」 「〇〇さんのあの行動、実はチームのこんなところに良い影響を与えていましたね。どのような意図で動いてくれたのですか?」
2. プロセスと行動に注目する
結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスや、メンバーが取った具体的な行動に焦点を当てて評価します。
- 問題発見と解決へのアプローチ: 問題が顕在化する前に予兆を察知し、自ら情報収集したり、解決策を提案したりする行動は、非常に価値の高い貢献です。これは「課題解決能力」だけでなく、「先見性」や「当事者意識」の表れです。
- 試行錯誤と改善努力: 計画通りに進まなくても、その原因を分析し、異なるアプローチを試みる姿勢は、学習能力と粘り強さの証拠です。失敗そのものよりも、そこから何を学び、次へどう活かそうとしているかに着目します。
- 裏方の業務への貢献: 例えば、プロジェクト管理ツールの整理整頓、会議資料の事前準備、データの集計・分析など、表には出にくいが、チーム全体の効率性や品質を支える業務への真摯な取り組みも重要な貢献です。
具体的な観察ポイント: * Aさんが、特定のタスクの効率を上げるために、新しいツールを自主的に調べて試用していた。 * Bさんが、顧客からのフィードバックを受けて、自ら追加調査を行い、製品改善のアイデアを提案した。
3. 周囲への影響と貢献を評価する
個人の行動がチーム全体や他のメンバーにどのような良い影響を与えているかを評価します。
- 協調性と情報共有: チーム内の情報共有を促進したり、他メンバーの業務を積極的に手伝ったりする行動は、チーム全体の生産性を高めます。
- チームの雰囲気作り: ポジティブな声かけ、困っているメンバーへのサポート、場を和ませる働きかけなども、チームの心理的安全性を高め、創造性を育む重要な貢献です。
- ナレッジシェアと育成: 自身の知識や経験を惜しみなく共有し、他のメンバーの成長を支援する行動は、組織全体の能力向上に直結します。
- 簡易的な360度評価の活用: 全員に実施するのは難しい場合でも、特定のテーマ(例: 「最近、誰かの行動で感謝したことはありますか?」)について、他のメンバーからの簡単なフィードバックを募ることで、リーダーが見落としがちな貢献が浮き彫りになることがあります。
具体的な例: * Cさんが、新しく参加したメンバーに積極的に声をかけ、オンボーディングをサポートしていた。 * Dさんが、チーム内の部署間調整において、進んでハブとなり、円滑なコミュニケーションを促進した。
具体的な評価・フィードバックのステップ
これらの視点で見つけた隠れた貢献を、どのように評価し、フィードバックすれば良いのでしょうか。
ステップ1: 定期的な1on1ミーティングの活用
メンバーとの1対1の定期的な面談(1on1ミーティング)は、隠れた貢献を見つけるための最も有効な場の一つです。単なる業務報告の場ではなく、メンバーの成長支援と関係構築に焦点を当てます。
- 具体的な質問例:
- 「最近、チームの中で何か気づいたことはありますか?」
- 「あなたが、このプロジェクトで『これは良かった』と感じたことは何ですか?具体的に教えてください。」
- 「もし困っていることがあれば、遠慮なく教えてください。何か手伝えることはありますか?」
- 傾聴と深掘り: メンバーが話す内容に耳を傾け、表面的ではない本質的な貢献や、彼らの思考プロセスに焦点を当てて深掘りします。
ステップ2: 行動ログの記録と共有
リーダー自身が、メンバーの「良い」と感じた行動や、隠れた貢献の兆候をこまめにメモする習慣をつけましょう。
- 簡単なメモの活用: スマートフォンやPCのメモ機能、あるいはシンプルなスプレッドシートやOneNote、Notionなどのツールに、日時と「誰が」「何を」「どのように」貢献したかを記録します。
- 「Good Job」文化の醸成: チーム内で、お互いの良い行動や助け合いを認め合う「Good Jobカード」のような仕組みを導入することも有効です。これにより、メンバー間の相互評価を促し、リーダーが見落とす可能性のある貢献も可視化されます。
ステップ3: ポジティブフィードバックの徹底
見つけた隠れた貢献は、積極的にフィードバックとして伝えます。評価面談の場だけでなく、日常的に行うことが重要です。
- 具体的かつ即時的に: 「〇〇さんの、先日の議事録のまとめ方、とても分かりやすくて助かりました。議論の本質が明確になり、その後のアクションにつながりやすかったです。」のように、具体的な行動とその行動がチームに与えた良い影響を伝えます。
- 継続的な承認: 一度だけでなく、同様の行動が見られた際には、再度ポジティブなフィードバックを与えることで、その行動が「良いこと」として強化され、定着しやすくなります。
- 評価面談での反映: 日常的に記録した行動ログを、評価面談の際に具体的なエピソードとして活用します。これにより、メンバーは「自分の行動がちゃんと見られていた」と感じ、納得感のある評価に繋がります。
組織文化への定着
これらの実践を継続することで、「隠れた貢献」が評価される組織文化が醸成されます。リーダー自身が率先して、成果だけでなくプロセスや協調性、主体的な行動を評価する姿勢を示すことが何よりも重要です。
- 貢献の定義を広げる: チーム内で、「貢献」とは何か、どのような行動がチームにとって価値があるのかを議論する機会を設けることも有効です。これにより、メンバー全員が多角的な視点から自身の、そして他者の貢献を認識できるようになります。
- 成功事例の共有: 隠れた貢献がチームの成功に繋がった事例を定期的に共有し、その価値をチーム全体で認識できるようにします。
まとめ:フォロワーシップを育むリーダーの視点
フォロワーシップは、単に指示に従うことではありません。チームの目標達成に向けて、自律的に考え、行動し、リーダーを補佐し、時には建設的に提言する姿勢そのものです。そして、その中には、目に見えにくいながらもチームの基盤を支え、成長を促す「隠れた貢献」が数多く存在します。
チームリーダーの役割は、これらの隠れた貢献を見つけ出し、光を当て、正当に評価することです。今回ご紹介した3つの視点と3つのステップを日々のマネジメントに取り入れることで、メンバーの主体性をさらに引き出し、エンゲージメントを高め、結果としてチーム全体のパフォーマンスを向上させることができるでしょう。
今日からできる小さな一歩を、ぜひチームで実践してみてください。